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ソフトウェア開発者として働く人の技術的なメモ

AWS Summit Tokyo 2013 に参加しました(2日目)

AWS Summit Tokyo 2013

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2013年6月に行われた、AWS Summit Tokyo 2013 の2日目に参加してきました。

今年の AWS Summit はビジネス寄りの話や利用事例が多く、例年よりテクニカルな話は少なかったそうなのですが、それだけ AWS が実際に利用される場面が増えてきた / 利用したい人・企業が増えてきたことの表れかと思います。参加者も非常に多く、1社のサービスでこれほどまでに盛り上がるのかと驚きました。

僕個人も AWS で遊ばせてもらっていたり、会社としても AWS を利用していますので抵抗はないのですが、このセミナーを通じて感じたことは、「クラウド環境に非常に興味はあるが、様々な理由から導入に踏み出せていない」企業が多いということです。それはセキュリティポリシークラウド環境に見合ったものではないとか、経営層が難を示すとか、システム部門が反対するなど色々理由があるようです。そんな中で全システムを AWS をはじめとするクラウド環境へ移行しているミサワホームの話を聞き、いわゆる大企業がどのようにクラウド化するのかを知ることができて、非常に面白かったです。

クラウドへの抵抗もある中、「○○社が基幹システムをAWSへ…」というニュースを見かけることも増えてきており、着実に AWS をはじめとするクラウドの利用が広まっているのも事実かと思います。RedShift のサービス開始や、HPC インスタンスとしての CC2, CR1 インスタンスの提供開始など、話題に事欠かない AWS にますます関心が高まります。

以下、いくつかのセッションの発表内容をまとめましたので、ご覧ください。

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Togetter

@shinyaa31 さんが、Twitter のつぶやきをまとめてくださっています。セミナーの様子が生き生きと分かります。

#awssummit AWS Summit Tokyo 2013 Day1 つぶやきまとめ

#awssummit AWS Summit Tokyo 2013 Day2 つぶやきまとめ

発表内容

デジタルマーケティングにおけるクラウド適用俯瞰図 / アマゾン データ サービス ジャパン株式会社 今井さん

アマゾンの今井さんは、デジタルマーケティングについてと、デジタルマーケティング分野における AWS の使いどころを紹介しました。(今井さんは第1回渋谷アドテク勉強会でもお話されていますので、「第1回渋谷アドテク勉強会に参加しました」も併せてご覧ください。)今井さんは、以前はリスティング広告の配信システムや運用設計、そして Hadoop を利用したレポーティングサービスを開発していたそうで、その経験をふまえてアマゾンでソリューションアーキテクトとして働かれています。

AWSとデジタルマーケティング

デジタルマーケティングという用語は幅が広く、広義ではテレビやラジオも含むようです。今井さんは、マーケティングをテレビやラジオなどに代表されるマスマーケティングと 1to1 マーケティングに分けた上で、デジタルマーケティングが 1to1 マーケティングの領域から、マスマーケティングの領域へと広がっていると言います。

重要なキーワードとして3つあります。1つは「ビッグデータ解析」。マスマーケティングへ領域が拡張するにつれ、DMP(=Data Management Platform)の重要性が増してきましたが、これには大量のデータを解析し、取り扱う技術が必要になると言います。2つ目は「柔軟なキャパシティ」。マスへ拡大するに連れ、テレビ放映直後にアクセスが集中することなどへの技術的な対応が必要となります。AWS ではサーバリソースを柔軟に変更することが可能なので、この「柔軟なキャパシティ」を備えています。3つ目は「高スループット&低レイテンシー」。AWS は仮想化技術を利用しているため、従来は遅いと思われていましたが、最近ではその点もかなり改善されていると言います。

AWS の使いどころ

好きな AWS サービスにも S3 を挙げる今井さんは、S3 を起点としたサービス群の活用が有用だと言います。ログや無くしてはいけない大切なデータは S3 へ保存し、そこから必要な時に EMR, DynamoDB, RedShift, そして自前で EC2 上に MongoDB をはじめとする NOSQL を利用することができます。

元々は科学技術計算用だった HPC も、HPC インスタンスとして日本に登場し、やや料金が高かった DynamoDB も2013年4月に最大75%の値下げを行いました。基幹系システムも AWS へ乗せる会社も現れるなど、クラウドへの心理的障壁も少しずつ低くなっていると感じますし、ますます用途が広がるのではないでしょうか。

事例1: JoinTV

日本テレビが提供する JoinTV は、テレビを見ながらスマートフォンやリモコンで番組に参加できるサービスです。このサービスには2つの同時性があります。1つに多くのユーザーが同時にアクセス(視聴率1%で100万人アクセス)こと。もう1つは番組の進行とユーザー体験の同時性です。この同時性を確保するために、JoinTV では AWS を利用しています。AWS の RDS であれば、データベースのスケールアップも非常に簡単に行えるため、柔軟なキャパシティが確保できます。

事例2: アドテク・DMP

フリークアウト社の RTB システムや、AdRoll 社のユーザーデータの管理、Albert 社や adingo 社の DMP にも、AWS は利用されています。

特にDMP では、大量のデータを定常的かつ効率的に集める、安全に保管し、効率的に解析する必要があります。これに対し、Albert ではいち早く S3 + RedShift を利用して効率的にデータ解析を行うサービスを提供するとして、話題になっています。adingo 社の DMP も、S3 + MongoDB を利用し、データの安全性と効率的に解析を行うことを両立させています。

高性能インスタンスで実現するHPCクラウドの実力 / アマゾン データ サービス ジャパン株式会社 松尾さん、インテル株式会社 田口さん

www_powerof60_com

アマゾンの松尾さんは、AWS の高性能インスタンス CC2, CR1 が日本に上陸したことを告げ、様々な HPC クラウドについて紹介しました。

一般に HPC(高性能計算)というと、CAD, EDA が有名ですが、建築土木、ゲノム、創薬など様々な分野で利用されています。広義には、金融シミュレーションやビッグデータも HPC として考えられているとのこと。

HPC が行えるインスタンスとして、CC2 と CR1 が日本に上陸しました。CC2 は 約 60GB RAM, 3.4TB のストレージ, CPU は Xeon E5-2670x2 を利用した88コア, I/O も 10Gbps, full bi-section を備えるなど、非常に高性能なインスタンスです。 メモリを 244 GB RAM にした CR1 インスタンスもあります。

CC2 と CR1 に関しては、プロセッサ(Xeon E5-2670x2)を公開している点が他のインスタンスと異なります。これはこのプロセッサが HPC や AWS での管理された空調で高パフォーマンスで動作することを提示することで、ユーザが CPU の特性を考慮した処理を行えるようにするためです。具体的には、アドバンスト・ベクトル・エクステンション(AVX) やターボブーストなどの機能がこのプロセッサに備わっています。

CC2 を 1026ノード立ち上げれば 240 TFLOPS もの処理性能を得ることができ、これは TOP 500(スパコンの性能ランキング)で42位にランクインするほどです。もちろん費用も高くつきますが、本来ならば構築だけで莫大な費用がかかるスパコンに匹敵する処理性能を、1時間辺り25万円で利用することが可能です。もちろん計算が終わってインスタンスを終了すれば、それ以上費用はかかりません。

この性能を引き出すためには、AWS 独自の「プレイスメントグループ」という考え方が大切です。「プレイスメントグループ」は、そのグループに所属するインスタンスは、物理的になるべく近いインスタンスとして立ち上げることで、ノード間の通信コストを下げることができます。「プレイスメントグループ」はその目的から、Zone をまたげないこと、サブネットをまたげないこと、インスタンスタイプが混在出来ないことんど、いくつか制約があります。利用される場合は確認した方がよいでしょう。

この CC2, CR1 ですが、日本では利用開始されたばかりなので、海外の事例が紹介されました。海外では NASA が非常にうまく、この HPC インスタンスを利用しているとのこと。火星へ降り立ったロボットが送ってくる画像データを S3 へ貯め込み、HPC インスタンスで画像解析させ、火星表面の凹凸を即座に数値化します。鉱物の分析も、データが送られたタイミングでクラスタが起動する仕組みになっているそうです。一方で AWS は超並列計算(MPI)は苦手なので、そこだけ外だしするなど、要所要所で AWS を上手く利用しています。

事例は www.powerof60.com でたくさん紹介されています。このウェブページからトライアルを申し込むと、HPC インスタンスの $100 チケットが貰えるそうなので、試してみたい方は申し込んでみてはいかがでしょうか。

HPC インスタンスについて、詳しくは aws.amazon.com/hpc をご覧ください。

クラウドへの引っ越しを始めたミサワホームの決断 / ミサワホーム株式会社 宮本さん

ミサワホームでは、2012年末から AWS への移行が始まりました。この移行は関連会社全てを対象に、基幹システムも含めた IT システム全てを対象とした、非常に先進的な事例です。この改革を「時代遅れから最先端へ」と表現するミサワホームの宮本さんは、開発経緯やクラウド環境へ移行する際の課題などを話しました。

システム再構築の背景

2000年問題以降、売上が思うように伸びず、10年間システム投資を抑制していたミサワホーム。システムも古くなり、子会社がそれぞれで IT 投資を始めるなど、本社で統一管理が行えていない状態となっていたそうで、ユーザ部門とシステム部門の混成を作り、2012年にシステム整備プロジェクトを発足しました。

このプロジェクトの目的としては、情報の一元化を図り、間接業務を共有化してコストを削減すること、事業ポートフォリオを多様化させることなどを掲げて行われました。

ミサワホームのような大企業では何年も継続して IT 投資できず、1年分の投資でシステム構築を行うとのこと。構築後は減価償却を行う必要があり、どんなシステムでも向こう数年は利用しなければなりません。しかし IT システムの一元化は「やってみなければ分からない」との声が多く、初めから全ての要望を完璧に満たせるシステムは構築できません。そこで、小さく始めて試行錯誤を行えるようなクラウド環境に着目しました。クラウド環境であれば、最初から全貌を想定したシステムリソースを確保する必要もなく、ハードウェアを調達する必要もありません。

プロジェクトは更に10個のプロジェクトに分かれます。中には Google Apps を利用したグループウェアの導入や、シンクライアントの導入など、AWS に依存しないものも含まれていますが、大抵のプロジェクトでは AWS 上で行われました。例えば、人事関連システム、給与計算システム、販管システム、文書管理システムなど、システムというシステムが AWS へ移行されます。一部プロジェクトはまだ進行中ですが、2014年上期にはプロジェクトを終えて、現在抱えているデータセンターを閉鎖する予定だそうです。

クラウドの課題

システムをクラウドへ移行する際には、社内で多くの不安の声があったそうです。1つは「漠然とした不安」。「重要な自社データを社外に預けていいのか」「データが無くなっても補償がないそうだ」など、何となく不安だという声が経営層を中心に聞かれました。この解決法としては、経営層にしっかりと理解してもらうしかないとのこと。経営層は「クラウド」が流行語のように聞こえているため、不安を取り除くことが重要だそうです。

2つ目に、システム部員の抵抗がありました。「外部システムなので、品質・性能を補償できない」「オンプレミスの方が安いはず」「自分たちの仕事がなくなる?」など、今の仕事が変わることに対しての抵抗があったそうです。しかし品質・性能はむしろクラウド環境の方が担保しやすく、オンプレミスの方が安いように見えるのは人件費を考慮していないためだとか、クラウド環境にシステムが移っても、そのシステム設定を管理するためにシステム部員は必要です。ここでも正確なシステム理解と、合理的な判断を訴える必要があります。

また、社外でも不安の声がありました。利用しているパッケージベンダが「当社のパッケージはクラウド上で稼働できない」と言うそうです。クラウドといってもサーバですから稼働できないことはないのですが、ベンダ自体がクラウドに抵抗を持っていたり、導入事例が無いために移行を拒むのだとか。これに対しては、クラウド事業も交えて3社で話し合うことが重要だと言います。一旦クラウド上での導入事例が出来れば、ベンダとしても「クラウド上で稼働できる」ことがパッケージ販売への強みとなります。

ユーザー部門とシステム部門の連携について

多くの会社も似た状況かもしれませんが、システム部門はユーザー部門に対して「受け身」であったり、単なる「御用聞き」であることが多いです。これはユーザー部門からシステム部門を見ると、「業務を知らない」、「対応が遅い」、「話が難しい」と思っているなど、部門間の意思疎通が図れていないことが原因です。例えば「話が難しい」については、ユーザー部門は問題に対してのビジネス的な解決方法を求めているのに、システム部門は細かいシステムの説明や問題点を指摘するためで、ユーザー部門が求めている対応を取れていないことが問題です。

連携の目指す方向性としては3つあります。1つは、システム改革にーザー部門を巻き込むこと。2つ目に、クラウド/パッケージ利用こそシステム部門の役割であり、積極的に導入していくこと。3つめに、システム部門はシステムの管理だけでなく、ユーザー部門に近いところでイノベーションに乗り出すべきだ、ということです。「優秀な人材がシステムの管理だけやっていてはもったいない」と言い、よりユーザー部門に近いところで活躍して欲しい、と宮本さんは語ります。

ブランドサイドのマーケッター視点で見るクラウド活用の勘所 / 花王株式会社 本間さん、株式会社リクルート住まいカンパニー 川本さん、株式会社東急ハンズ 長谷川さん

このセッションは3者のパネルディスカッションとなっており、クラウドを自社に導入したい人が感じている障壁について、Q&Aで3人が回答していきました。

ここでは Q&A の中で分かった、3者のクラウド利用状況についてまとめます。

リクルート住まいカンパニーでの AWS 利用状況

リクルート住まいカンパニーでは、基本的にオンプレミスを主体としたメディアの運営を行っています。しかし CM などもあり、トラフィックが急激に上昇することへの懸念から、一部で AWS を利用しています。特にスマートフォンでは全面的に AWS を利用したり、最近 CM をしている「なぞって検索」は PostGIS を用いたサービスですが、これも AWS 上で稼働しています。

個人情報よりも、トラフィック側をクラウドで処理し、個人情報や広告、SLA が高めの所はオンプレミスで運用するというスタンスを取っているようです。

SLA が高めのところはオンプレミスで…」という点について、「SLA が高いなら AWS ではないのか」と聴衆からコメントがありました。障害時に詳細に説明責任を問われることがあり、このような利用シーンでは AWS では叶わない場合があると川本さんは回答しています。

ハンズラボの AWS 利用状況

長谷川さんはハンズラボ社長で、「POSサーバから基幹システムまで、「聖域」なくどんどん AWS でやってみよう!」というスタンスです。ハンズバーゲン時にはトラフィックが200倍に跳ね上がるそうで、このトラフィックを捌くには AWS が不可欠とのこと。

全てのシステムが AWS というのも珍しいと思いますが、社長である長谷川さんがこのようなスタンスだから可能なのかもしれません。

現在はクラウドへの過渡期で、多くの企業のセキュリティポリシークラウド環境が合わないため、企業がセキュリティポリシーを変更する必要があります。これは自社サーバからデータセンターへの過渡期と同じで、当初は「自社サーバの方が安全で低コストだ」と言われていたそうで、これと同じ流れが、データセンターからクラウドへ移行する現在起きているそうです。ここで必要なのがセキュリティポリシーを刷新することですが、これは企業トップやユーザー部門が発案すれば行いやすいものの、情報システム部が言いだすのは自らに説明責任があるため、非常に敷居が高いとのこと。そのため、多くの企業が周りの様子を伺っている状態だといいます。

イノベーションへの障害のほとんどは「気のせい」だと豪語する長谷川さんのアグレッシブさにとても感心しました。

花王AWS 利用状況

花王の本間さんはファシリテーターだったため、自社のサービスを細かく語ることはありませんでしたが、本間さん発案で、全システムを AWS に移したと仰っていました。自社なりデータセンターでサーバを持っていると必ず機器の入れ替えが発生しますが、このタイミングで土日出社する必要があるため、これを辞めたいという素直な同期から、AWS 移行を決めたそうです。

花王セキュリティポリシークラウド環境に見合ったものではないものの、これを理解してなお AWS への移行を手助けしてくれる SIer(CTC)の存在があり、SIer の心強さを感じたそうです。